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補助事業番号: |
23-147 |
補助事業名: |
平成23年度(研究補助)ビークル用小形シミュレータ研究補助事業 |
補助事業者名: |
法政大学 デザイン工学部 システムデザイン学科
高機能メカトロデザイン研究室 教授 田中 豊 |
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日本は2017年には人口の5人に一人が高齢者となる高齢化社会が到来する.高齢化社会における様々な問題の中でも,高齢者の交通事情はすでに深刻化している.年齢を重ねるにつれ,徒歩での移動が増えその他の交通手段の利用が減ってくる.また高齢者にとって自転車や自動車の運転や公共交通機関の利用は,大きな負担になる.さらに過疎地では,路線バスの廃止等により不便な地域が増加しており,都市圏と過疎地域のいずれにおいても交通事情は深刻化している.
電気自動車をはじめとする次世代モビリティーにおいては,駆動系の可動範囲の広域化や運動性能の大幅な向上が期待される.特に高齢化社会での普及が期待されているのがパーソナルモビリティーである.パーソナルモビリティーは,徒歩と既存の移動手段の中間に位置する手軽な移動手段として注目されている.手軽さと柔軟さから,高齢者等の幅広いユーザからの利用が見込めるだけでなく,商業施設やテーマパーク等での利用も期待される.
パーソナルモビリティーは駆動系の配置や駆動制御から,既存の移動体とは異なる図1および以下に示す特徴的な運動動作が可能である. |
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●旋回運動 |
左右のタイヤが独立して動くことが可能なので,Uターンすることなく,その場での旋回ができる. |
●車体のリーン |
コンパクトな車体での安定した走行を可能にするために,コーナリングでは車体をリーンさせ遠心力と重力のバランスをとる構造となる. |
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一方,モーションシミュレータ装置とは,自動車や航空機等の模擬訓練装置である.モーションシミュレータ装置の代表である航空機のフライトシミュレータ装置を図2に示す.このシミュレータ装置は,模擬操縦席とそれを支えるモーションベース(運動機構)から構成される.訓練者は模擬操縦席でコンピュータ上に再現されたシナリオに沿った仮想訓練が体感できる.訓練者の操縦に伴う運動をモーションベースが再現し,操縦者に飛行状態の加速度を,シナリオに合わせて疑似的に体験させることによって操縦訓練を行う.
現在のモーションシミュレータのモーションベースには,図3に示す「スチュワートプラットフォーム」と呼ばれる運動機構が広く使われている.この運動機構は6本の脚を伸縮させることによってモーションプラットフォームの6自由度の運動を可能にしている.この機構は剛性,耐荷重能力に優れている反面,可動範囲が狭く,設置面積が大きいという欠点がある.したがってスチュワートプラットフォームでは,次世代モビリティー特有の俊敏な動きや加速度を再現することは難しい. |
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今後の次世代モビリティーシステム社会の到来に備え、新しい小形ビークルの操縦特性の研究に加え、安全性、効率性、費用対効果の面から優れた教育訓練装置としての小形で高性能な運動シミュレータ装置の潜在需要は高い.しかし従来の運動シミュレータ装置は,長年にわたりスチュワートプラットフォーム型6脚パラレルメカニズムが用いられており,構造上,大きくなりがちで,主に大規模な研究開発用に特化した,非常に高価な装置であることが課題となっている.
本補助事業の目的は,ダイナミックな運動を小さなスペースで実現できる新発想の平面運動型3脚パラレルメカニズムの運動機構(図4)による特許技術を利用して,従来の大型シミュレータ装置では実現できない,高い性能と新しい機能,高い臨場感を持つ,小形で安価な,教育訓練用の次世代小形運動シミュレータを技術開発することである. |
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本補助事業で実施した研究項目とその内容は,以下の通りである. |
@ |
運動機構モデルの設計と製作 |
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従来の問題点を解決した,より可動範囲の広い運動性能を有する小形モーションシミュレータ装置を提案・設計・製作した.図5は試作したスケールモデルの写真である. |
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A |
運動機構の制御装置の製作と評価 |
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@で製作したモーションシミュレータ装置の6つのアクチュエータを同時に制御する装置とその動作用ユーザーインタフェースを製作し、任意の姿勢や運動状態の動作性能や再現性、運動精度などを評価した.図6は動作システムの構成図,図7は動作用ユーザーインタフェースである. |
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B |
運動性能の解析と評価 |
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@で製作したモーションシミュレータ装置と,Aで確立した制御装置から成るシステムやシミュレーションを用いて,その可動範囲や動作特性などの運動性能を測定し,システムの運動性能の評価を行った.表1は従来のパラレルメカニズムによる製品と本事業で試作した装置との動作領域と設置面積の比較である. |
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C |
運動機構の解析と評価 |
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@で製作したモーションシミュレータ装置を用いて,継手や脚,装置自体の剛性や作用する力,姿勢に起因する特異点など,材料強度や力学的特性,運動学的特性などの面から評価した. |
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D |
実機用プロトタイプの設計と設計指針の作成 |
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A〜Cで明らかとなった問題点と課題を検討し,それらの結果を踏まえた上で,パーソナルモビリティービークル用の小形運動シミュレータ装置の設計指針を確立した. |
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本補助事業から得られた結論と成果をまとめると以下のとおりである.
本事業では,平面回転形三脚パラレルメカニズムを用いた次世代パーソナルモビリティー用シミュレータ装置を提案した.既存のフライトシミュレータに用いられるスチュアートプラットフォームに代わる新たな機構として平面回転形三脚パラレルメカニズムとその運動制御システムを提案・試作した.数値シミュレーションと試作機を用いた運動の計測による評価を行い以下の結論を得た. |
(1) |
平面回転形三脚パラレルメカニズムの並進運動の動作領域は z 軸変位が負の方向に対して大きくなればなるほど x-y 平面の可動領域が大きくなる. |
(2) |
平面回転形三脚パラレルメカニズムの軸周りの回転運動の動作領域は φ,θ がそれぞれ非対称性,対称性をもつ. |
(3) |
平面回転形三脚パラレルメカニズムの動作領域は z 軸変位除き,既存のそれを大きく上回りながら設置面積が小さい. |
(4) |
平面回転形三脚パラレルメカニズム並進運動の動作領域を体積として計算した場合,φ,θそれぞれの姿勢変化をともなっても既存のそれより優位である. |
(5) |
動作シミュレーションの結果から,ユーザの使い勝手を考慮したモーションシステムの配置レイアウトでも必要性能を十分に満たす. |
(6) |
平面回転形三脚パラレルメカニズムの運動においては各モータの移動量に対して適切な速度歪みを与える事により,運動過程における不必要な姿勢変化の発生を防ぐ事が出来る. |
(7) |
平面回転三脚パラレルメカニズムの試作機を開発し計測実験を行った結果,目標運動に対して誤差 1mm 以内の運動精度を実現し,事前の動作領域評価および動作システム設計は適切なものであった. |
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以上のように,平面回転形三脚パラレルメカニズムは姿勢変化を与えてもスチュワートプラットフォームよりも広い動作領域を維持することが確認された.また位置決め実験から試作機が並進・回転運動において十分な位置決め精度を持つことが確認できた.
今後は試作機のアクチュエータをきめ細かく制御し,平面回転形三脚パラレルメカニズムの速度・加速度などの動作特性を検証する予定である.また脚部を歪曲させたものや,3本の脚それぞれの長さを変えた場合での動作検討を行うことで,よりユーザビリティや実用化を意識した研究開発を進めることが出来ると考えられる. |
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